坂ダッシュは、100mほどの坂を全力で駆け上がって、歩いて戻る。それを何本か繰り返すだけの練習だ。器具もいらないし、コースも要らない。近所に坂が1本あればできる。
ただ、やっている人ほど「今日は何本やるか」ばかり気にしがちだと思う。自分もそうだった。
結論を先に書く。坂ダッシュで見るべきは本数ではない。「最後の1本が一番速いかどうか」だ。
2026年8月2日、16kmのミドル走の途中に坂ダッシュを8本入れた。そのときの全ラップデータを、この記事で全部出す。ペース・パワー・心拍・ピッチまで、隠さずに載せる。
坂ダッシュとは|平地のスピード練習と何が違うのか
坂ダッシュ(ヒルスプリント)は、上り坂を短い距離だけ全力で走る練習だ。距離は50〜150mくらい、時間にすると15〜30秒。歩いて坂を下って戻り、それを繰り返す。
同じ「速く走る練習」でも、平地のインターバル走とは狙っているものが違う。
| 平地のインターバル走 | 坂ダッシュ | |
|---|---|---|
| 主な狙い | VO₂max(心肺の天井) | 筋出力・神経系 |
| 1本の時間 | 3〜5分 | 15〜30秒 |
| 心拍 | 最大近くまで上がる | 上がりきらない |
| 着地の衝撃 | 大きい | 小さい(スピードが出ないため) |
| フォーム | 意識しないと崩れる | 前傾・素早い接地に自然となる |
とくに着地衝撃が小さいのは、膝に不安を抱えている人には大きい。同じだけ脚に力を出させても、地面から返ってくる衝撃は平地の全力走より軽い。自分は半月板を傷めているので、この点は無視できなかった。

私のやり方|ミドル走16kmの途中に8本はさむ

使っているのは自宅コースの5.5km地点にある坂だ。距離にして約100m。特別な場所ではなく、ただの住宅街の坂である。
組み立てはこうしている。
- 5.5kmをミドルペース(5分16秒/km)で走って坂まで行く=これがウォームアップを兼ねる
- 坂100m を全力で駆け上がる → 2分かけて歩いて戻る、を8本
- 残り7.5kmをミドルペース(4分59秒/km)で走る
- 最後にジョグ1kmでクールダウン
合計16.03km、1時間25分。トレーニング負荷は147だった。
なぜ坂だけの単独練習にしないのか
理由は3つある。
ひとつめ。坂を8本走っても、走行距離は800mにしかならない。それだけでは有酸素の刺激がまるで足りない。前後に走ることで、1回の練習として成立させている。
ふたつめ。ウォームアップの手間が省ける。冷えた脚でいきなり坂を全力で上るのは、はっきり危ない。5.5km走ってから入れば、その心配がない。
みっつめ、そしてこれが一番大事なのだが——坂で崩れた動きを、そのあとの7.5kmで「戻す」練習になる。脚が重くなった状態でフォームを立て直す。これがレース終盤で効いてくる。

実際のデータ:8本すべての記録

2026年8月2日、気温16℃、朝4時15分スタート。8本すべての数字がこれだ。
| 本 | ペース | 平均心拍 | 最大心拍 | パワー | ピッチ | ストライド |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 3’56” | 146 | 155 | 244w | 200 | 127cm |
| 2 | 3’35” | 147 | 158 | 271w | 202 | 138cm |
| 3 | 3’58” | 142 | 152 | 257w | 197 | 128cm |
| 4 | 3’27” | 134 | 148 | 263w | 199 | 146cm |
| 5 | 3’32” | 168 | 174 | 281w | 202 | 140cm |
| 6 | 3’27” | 133 | 146 | 270w | 199 | 146cm |
| 7 | 3’35” | 138 | 149 | 262w | 196 | 142cm |
| 8 | 2’56” | 148 | 166 | 346w | 213 | 160cm |
前半4本の平均が3分44秒、後半4本の平均が3分22秒。22秒も上がっている。
そして8本目が2分56秒。この日の最速で、パワーは346Wと他の本より70W以上高い。ピッチ213・ストライド160cmという数字も、他の本とは明らかに別物だ。
いちばん大事なのは「最後の1本」
ここが、この記事で一番書きたかったところだ。
坂ダッシュの成否は、最後の1本で出力が落ちていないかどうかで決まる。落ちているなら、その日の本数は多すぎた。あるいは前半で突っ込みすぎたか、そもそも疲労が残っていたかのどれかだ。
逆に最後まで落ちない、さらに言えば尻上がりに上がっていくなら、その本数はちょうど良かったということになる。
「全部同じペースで揃った」は、実はそこまで良くない
揃っているということは、1本目から余力を残して走った可能性がある。坂ダッシュは1本ごとに全力を出す練習なので、最初は探りながら、後半に体が起きてきて上がっていくのが自然な形だと考えている。
実際、上の表でも1本目は3分56秒、3本目は3分58秒とバラついている。体が起きるまでに時間がかかっているのがそのまま出ている。それが4本目以降で揃い、最後に跳ねた。
自分に合う本数の見つけ方
決まった正解はない。ただ、探し方はシンプルだ。
- まず4本から始める。これで最後の1本が落ちなければ十分に足りている
- 次の週に1〜2本だけ増やす。一気に倍にしない
- 最後の1本が明らかに落ちたら、そこが今の上限。次回は1本減らす
- ペースが分かりにくければ「同じくらいきついか」の体感でいい。最後がいちばんつらかった日は、たぶん多すぎる
心拍が上がらないのは「正しい」
表を見て、気づいた人もいると思う。走行中の平均心拍が133〜168と、意外に低い。最大でも166(8本目)で、自分の最大心拍192に対して86%ほどだ。
これを見て「追い込めていない」と思う必要はない。20秒前後の全力走では、そもそも心拍が上がりきらないからだ。
心拍は運動を始めてから遅れて上がってくる。20秒で終わってしまう坂ダッシュでは、心臓が反応し終わる前にゴールしている。だから心拍の数字は、この練習の強度をまったく表していない。
見るべきはパワーとペース、そしてピッチだ。この日の8本目は346W・ピッチ213。心拍166という数字より、こちらのほうがよほど「全力だった」ことを語っている。
だからこそ、レストで心拍をしっかり戻すことが大事になる。自分は坂を歩いて下りながら2分かけている。息が整ってから次の1本に入るからこそ、毎本フレッシュに踏める。ここを急ぐと、心肺だけがきつい別の練習になってしまう。

坂ダッシュで、何が変わったか
①レース終盤で腰が落ちにくくなる
この坂ダッシュをやった前日、30kmのロング走でラスト4kmに腰が落ちる感覚があった。坂は、まさにその課題への直接の処方だ。
脚が疲れてくると、人はストライドが縮み、上下動が増えて、腰が落ちる。坂ダッシュは強制的に「地面を強く押す」動きを繰り返すので、その出力そのものを底上げできる。
実際この日は、坂8本を終えたあとの7.5kmを4分59秒/km・心拍149で流せた。坂で崩れた動きが、ちゃんと戻っている。
②フォームが勝手に整う
上り坂では、前傾しないと進まない。接地を素早くしないと失速する。つまり「良いフォーム」を意識しなくても、坂がそう走らせてくれる。
数字にも出ている。平地のミドルペースではピッチ176前後だが、坂では196〜213まで上がっている。この感覚を体に残したまま平地に戻るのが、坂ダッシュの隠れた効能だと思っている。

③膝への不安が比較的少ない
スピードが出ないぶん、着地の衝撃は平地の全力走より小さい。膝に不安を抱えたまま強度を上げたいとき、坂は現実的な選択肢になる。
ただし「膝に優しい」と言い切るつもりはない。全力で地面を蹴る以上、負荷はかかる。あくまで平地の全力走と比べればという話だ。
やるときの注意点
- ウォームアップは必須。冷えた脚でいきなり全力で坂を上るのは危険。最低でも15〜20分は走ってから
- 下りは絶対に走らない。下りこそ着地衝撃が最大になる。歩いて戻る。これがレストも兼ねる
- 週1回まで。短時間でも神経系への負荷は高い。疲労が抜けている日に入れる
- 膝や足首に違和感がある日はやらない。全力走は、違和感を一気に痛みへ変える力がある
- 坂の勾配は緩めでいい。急すぎるとフォームが崩れて別の動きになる。息が上がる程度の普通の坂で十分
※ 痛みが出ている人へ
この記事は「今のところ痛みなく走れている人が、さらに強くなるための練習」を扱っている。すでに痛みがある場合は、坂ダッシュを足す前に医療機関で診てもらってほしい。強度の高い練習は、原因が分からないまま重ねると悪化させることがある。
あわせて、体幹と臀筋の補強をやっておくと坂の効きが変わる。地面を押す力を受け止める土台の話だ。

まとめ|本数を数えるより、最後の1本を見る
坂ダッシュでやることは単純だ。坂を全力で上って、歩いて戻る。それだけ。
だからこそ、見るべき数字も1つでいい。最後の1本が、その日でいちばん速いか。
速ければ、本数は合っている。落ちていれば、多すぎる。それだけの話だ。
この日は8本目に2分56秒が出た。前日のロング走で腰が落ちて、正直へこんでいた翌日に、である。こういう終わり方ができた日は、素直に気分がいい。
ハーフマラソン1時間20分切りを目指している最中の練習として組んでいるので、その全体像は中間報告にまとめてある。

また走ってきます。🍚

