走るだけでは強くなれない——そう気づいたのは、ハーフマラソンで何度も壁にぶつかっていた頃だ。
インターバルもテンポ走もこなしていた。週50km以上走っていた。なのにフォームが後半に崩れる。膝が痛む。タイムが伸び止まる。
原因は「走る土台」の弱さだった。体幹と臀筋——この2つを鍛えてから、ランニングが変わった。
この記事では、なぜランナーに補強トレーニングが必要なのか、何をどう鍛えるべきかを、40代の市民ランナーが実際に2年続けてきた立場からまとめる。医療や運動指導の専門家ではないので、断定ではなく「自分はこうしている」という形で書く。そのぶん、続けられるかどうかという現実的なところは具体的に書けると思う。
なぜランナーに補強トレーニングが必要なのか
「走れば走るほど強くなる」——これは半分正解、半分間違いだ。
ランニングで主に鍛えられるのは、脚の往復運動に使う筋肉(大腿四頭筋・ハムストリングス・ふくらはぎなど)だ。しかしこれらを支える「土台」——体幹と臀筋——は、走るだけでは十分に鍛えられない。
土台が弱いと、次のような問題が起きる。
- フォームが崩れる:上体がぐらつき、エネルギーのロスが増える
- ケガのリスクが上がる:膝・腸脛靭帯・足底などへの負担が偏る
- 後半に失速する:疲れてくると体幹で支えられなくなる
逆に言えば、体幹と臀筋を強化することで、より少ないエネルギーで速く走れる体になる。
特に鍛えるべき2つの部位
体幹(コア)
「体幹」とは、腹部・背部・骨盤周りの筋肉群のことだ。腹直筋(いわゆる腹筋)だけでなく、腹横筋(インナーユニット)・多裂筋・横隔膜なども含む。
ランニング中、体幹は上半身と下半身をつなぎ、推進力を効率よく伝える役割を担っている。ここが弱いと、脚が生み出した力が体幹で逃げてしまう。体幹が安定していれば、同じペースでも使うエネルギーが減る。
臀筋(お尻の筋肉)
臀筋は3つある——大臀筋・中臀筋・小臀筋だ。ランニングで特に重要なのは、蹴り出しの主役である大臀筋と、骨盤の横ブレを防ぐ中臀筋だ。
中臀筋が弱いと、着地のたびに骨盤が落ちやすくなる(トレンデレンブルグ徴候)。この骨盤の横ブレは膝への横方向のストレスを増やし、ランナー膝や腸脛靭帯炎の要因のひとつとして挙げられることが多い。
※ すでに痛みが出ている人へ
この記事は「ケガをしにくい体をつくる」ための予防的な補強を扱っている。いま痛みがある場合は、まず整形外科などの医療機関で診てもらってほしい。原因が分からないまま補強を足しても、悪化させることがある。自分も棚障害で一冬を棒に振ったとき、最初の判断を先延ばしにしたのが一番の失敗だった。
今日からできる補強トレーニング6種目
特別な器具は不要だ。ヨガマット1枚あれば全部できる。
①プランク(体幹の基礎)

やり方
- うつ伏せになり、前腕と爪先だけで体を支える
- 体が一直線になるようにキープ(お尻が上がったり下がったりしないように)
- 腹部に力を入れ、呼吸を止めずに保持する
目標:30秒 × 3セット
ポイント:腰が反りやすい人は特に「お腹を薄く保つ意識」を持つこと。目線は床へ。反り腰のランナーが体幹の弱さに気づくきっかけになることが多い種目だ。
②サイドプランク(体幹・中臀筋・腸腰筋)

やり方
- 横向きに寝て、片方の前腕と足の側面で体を支える
- 腰を持ち上げ、体が一直線になるようにキープ
- 左右ともに行う
目標:20秒 × 3セット(左右)
ポイント:骨盤が落ちないように意識する。最初はきつければ膝をついた「ハーフサイドプランク」から始めてもいい。
③デッドバグ(体幹インナーユニット強化)

やり方
- 仰向けになり、両腕を天井に向けて伸ばし、両膝を90度に曲げて持ち上げる
- 腰をしっかり床に押し付けた状態を保ちながら、右腕を後ろへ・左脚を前へ同時にゆっくり伸ばす
- 元の位置に戻し、反対側も同様に行う
目標:左右5回ずつ × 3セット
ポイント:腰が浮かないことが最重要だ。浮いたら可動域を小さくして続ける。地味に見えてかなりきつい。
④グルートブリッジ(大臀筋)

やり方
- 仰向けになり、膝を90度に曲げて立てる
- かかとで床を押しながら腰を持ち上げる
- お尻の筋肉をギュッと絞ってから下ろす
目標:15回 × 3セット
ポイント:ハムストリングスに頼らず「お尻で押す」感覚を意識する。お尻の上に手を当てながらやると、筋肉の収縮を確認しやすい。
⑤シングルレッググルートブリッジ(大臀筋・左右差修正)

やり方
- グルートブリッジの姿勢から片膝を伸ばし、片脚で腰を持ち上げる
- 左右それぞれで行い、弱い側・強い側の差を確認する
目標:各10回 × 3セット
ポイント:ほとんどのランナーに左右差がある。弱い側は回数を増やしてバランスを整えるといい。利き足と逆側が弱いケースが多い。
⑥クラムシェル(中臀筋・外旋筋)

やり方
- 横向きに寝て、腰と膝を90度に曲げた状態で脚を重ねる
- かかとを合わせたまま、上の膝だけを貝殻が開くように持ち上げる
- ゆっくり元に戻す
目標:15回 × 3セット(左右)
ポイント:骨盤が後ろに倒れないように。ゆっくりやるほど効く。これが非常につらい人は、中臀筋がかなり弱っているサインだ。焦らずここから始めるといい。
週何回・いつやる?ランニングへの組み込み方
週2〜3回を目安にする。毎日やる必要はなく、筋肉の回復を考えると1日おきのペースが理想だ。
なお、補強の効果が走りに出ているかどうかは、体感だけでなくピッチ(ケイデンス)などの数値でも追える。疲れてきたときにピッチが落ちにくくなっていれば、土台が効いているサインだと考えている。
タイミングはランニング後がおすすめだ。走った後は筋肉が温まっており、補強の効果が出やすい。ランニング前に行うと主運動への疲労持ち込みになるため避ける。
1回の時間の目安は15〜20分。全6種目をこなしてもこれくらいで終わる。「練習後の20分を補強タイム」として固定すると習慣化しやすい。
| 曜日の例 | 練習 | 補強 |
|---|---|---|
| 火 | インターバル走 | ◎ やる |
| 木 | テンポ走 | ◎ やる |
| 土 | ロング走 | △ 疲労次第 |
| 日 | 軽いジョグ | ◎ やる |
実際にやってみて変わったこと
補強トレーニングを習慣化してから、3つのことが変わった。
後半のフォーム崩れが減った。特にインターバルの4〜5本目で上体が揺れなくなった。体幹が安定しているのを走りながら実感できる。
膝の違和感が消えた。以前はロング走の後に左膝が張っていた。クラムシェルで中臀筋を鍛えてから、骨盤の横ブレが減り、膝への負担が軽くなった実感がある。
最後の1kmで粘れるようになった。後半に脚よりも先に体幹が疲れていたのだと、補強をやり始めてから気づいた。土台がしっかりすると、脚の力を最後まで使い切れる。
【追記】2ヶ月続けて、どうなったか(2026年8月)
この記事を書いたのは2026年6月。そこから約2ヶ月、補強を続けながら「ハーフマラソン1時間20分切り」を目指すトレーニングを積んできた。せっかくなので、その結果も正直に書いておく。
10週間で756km。週の走行距離は最大91km。5月時点と比べると、明らかに走る量も強度も上がっている。
その間、膝の痛みで練習を止めたのは1回だけだった。6月25日、テンポ走に出た直後に違和感が出て1.6kmで切り上げ、その週に予定していたロング走24kmも飛ばした。4日休んだら戻った。半月板損傷と棚障害の既往を抱えたまま、この量を走れているのは、個人的には補強を切らさなかったことが大きいと感じている。
とくに効いている実感があるのは、⑤シングルレッググルートブリッジと⑥クラムシェルの2種目だ。始めた頃は左右差がはっきり分かったが、今はその差がかなり縮んだ。走っていて骨盤が落ちる感じが減ったのも、この2つを続けてからだと思う。
ただし、はっきり書いておきたいことがある。補強はケガをしなくなる魔法ではない。6月25日に止められたのは、補強をやっていたからではなく、「違和感が出たらその場でやめる」と決めていたからだ。土台をつくることと、引くべきときに引くこと。この2つはセットで初めて機能する。
まとめ
ランナーの補強トレーニングは「走れない日の埋め合わせ」ではない。走力を引き出すための必須投資だ。
| 種目 | ターゲット | 難易度 |
|---|---|---|
| プランク | 体幹全般 | ★☆☆ |
| サイドプランク | 体幹・中臀筋 | ★★☆ |
| デッドバグ | インナーユニット | ★★☆ |
| グルートブリッジ | 大臀筋 | ★☆☆ |
| シングルレッグ | 大臀筋・左右差修正 | ★★☆ |
| クラムシェル | 中臀筋・外旋筋 | ★★☆ |
特別な器具は不要。週2〜3回、ランニング後の20分。それだけで走りの土台は確実に変わっていく。
40代から始めても遅くはない。むしろ、体幹と臀筋の弱さを放置したまま走り続けることの方が、ケガのリスクという意味でずっと危険だ。

