最近のランニングウォッチは、朝起きるとHRV(心拍変動)という数字を出してくる。
ただ、これをどう使えばいいのかは、あまり語られていないと思う。低いと言われても、じゃあ走るのをやめるのか。高ければ追い込んでいいのか。
2026年8月3日、自分の時計は妙なことを言った。「リカバリー100%・全回復」と表示しながら、HRVだけが「やや低い」と出ていた。体感も「走れそう」だった。4対1で、走ってよさそうに見えた。
その日、走るのをやめた。そして2日後、1kmの自己ベストが出た。
この記事は、そのときの実データと判断の記録である。医学的な指導ではなく、一人の市民ランナーが数字をどう読んだかという話として読んでほしい。
HRV(心拍変動)とは何か
心拍数が「1分間に60回」のとき、1秒ごとに規則正しく打っているわけではない。実際には1.02秒、0.98秒、1.05秒……とわずかにゆらいでいる。このゆらぎの大きさがHRV(Heart Rate Variability/心拍変動)だ。
このゆらぎは自律神経の状態を映すとされていて、一般には次のように解釈されている。
| HRV | 一般的な解釈 |
|---|---|
| 高い | 副交感神経が優位。回復している状態とされる |
| 低い | 交感神経が優位。ストレスや疲労がかかっている状態とされる |
大事なのはここからで、HRVの絶対値は個人差がとても大きい。20msの人もいれば80msの人もいて、他人と比べても意味がない。
自分の場合、時計が算出した正常範囲は51〜65msだった。これは過去の測定データから個人ごとに出されるもので、他の人には当てはまらない。見るべきは「自分の平常時からどれだけズレたか」である。
8月3日、指標が食い違った

前提を書いておく。この直前の1週間は、自分にとって最も走った週だった。週91.46km、トレーニング負荷952。ハーフマラソン1時間20分切りを目指した19週計画の、ピーク週にあたる。
その翌日、時計の画面はこうなっていた。
- リカバリー 100%「全回復」
- 7日間ランニングパフォーマンス 100%「良い」
- 負荷比率 114%(前日の126%から改善)
- 体感 「インターバルもテンポ走も、それなりの負荷で走れそう」
- HRV 50ms「やや低い」 ← 正常範囲51〜65を下回っている
時計はこう表示していた。
HRVがやや低く、あなたの身体は少しストレスを感じている状態です。仕事やトレーニングを少し減らしてみましょう。
正直に言うと、走りたかった。ピーク週を終えて、脚は軽かった。前日の坂ダッシュでは最後の1本が一番速く、パワーも過去最高が出ていた。

なぜ食い違うのか|測っているものが違う
調べて、そして納得したのは、この2つはそもそも別のものを測っているということだった。
| 指標 | 測っているもの | 戻るまでの時間 |
|---|---|---|
| リカバリー | 直近のトレーニングからの回復。筋肉寄り | 数十時間 |
| HRV | 自律神経の回復 | 数日〜1週間 |
そして重要なのは、筋肉は必ず自律神経より先に戻るということだ。
つまり——「走れそうな気がする」は、回復が完了したサインではない。回復の途中で、必ず一度は出てくる感覚だ。
ここが腹に落ちてから、判断が楽になった。体感が良いのは正常。だがそれは「まだ途中」と矛盾しない。両方本当なのだ。
どう判断したか|2日、我慢した
やったことは3つだけだ。
①回復週の設計を1本も足さない
ピーク週91kmの次の週は、44kmに落とす設計にしてあった。半分以下だ。ここに「せっかく調子がいいから」と足さない。
積んだ負荷は、まだ「借金」の状態だと考えている。回復して初めて「貯金」=適応に変わる。ここで返済せずに借り増すと、翌週の高負荷ブロックが受け止められなくなる。
②長い練習を、予定どおりの距離に戻す
このとき、日曜に組んであったロング走が、名前は「22km」なのに中身が30kmで登録されていた。単純な登録ミスだったが、気づかず走っていたら回復週が回復週でなくなっていた。設計どおりの22kmに直した。
③つなぎのジョグのペースを落とす
平日の昼ランは5km。ここを普段の4分49秒/kmから、5分10〜20秒の会話ペースに落とした。距離ではなくペースを落とすほうが、自律神経には効くという判断だ。
結果:HRVは2日で戻った

数字はこう動いた。
| 日付 | HRV | 評価 |
|---|---|---|
| 8月2日(ピーク週最終日) | 52ms | 範囲の下限ぎりぎり |
| 8月3日 | 50ms | やや低い(範囲を下回る) |
| 8月4日 | 60ms | 普通(範囲のほぼ中央) |
そして8月4日、回復週のインターバル走で1kmの自己ベストを更新した。3分31秒。設定ペースは3分42秒とゆるめだったのに、3本目で勝手に出た。
※ 因果関係は、そこまで強く主張しない
「HRVを見て休んだから速くなった」と言い切るつもりはない。たまたま調子が上向くタイミングだった可能性もある。ここで書けるのは「我慢した → 数字が戻った → 良い練習ができた」という順番があったという事実だけである。
HRVをランニングに使う、自分なりの3つのルール
①単日の数字で判断しない
HRVは飲酒・寝不足・測定タイミング・体調で簡単に10ms動く。1日下がっただけで慌てる必要はない。見るのは3日程度の傾向だ。
自分の場合も、7月末から少しずつ下がり続けていて、8月3日にとうとう範囲を割った。点ではなく線で見たから、これは疲労だと判断できた。
②他の指標と食い違ったときこそ、HRVを重く見る
全部の指標が良いときは、HRVを気にする必要はない。困るのは食い違ったときだ。
自分は食い違ったらHRVを優先すると決めている。理由は単純で、体感とリカバリーは「もう大丈夫」と早めに言いすぎるからだ。先に戻る指標を信じると、いつも積みすぎになる。
③下がったら「休む」ではなく「上げない」
ゼロか100かにしないのが、続けるコツだと思っている。HRVが下がった日は、練習をやめるのではなく設定を1秒も速くしない。予定どおりのペースを、予定どおりの本数だけこなす。
完全休養が必要なのは、HRVが数日にわたって明確に低い状態が続くときだけ、というのが今のところの運用だ。
注意点
- HRVは医療の診断ではない。体調不良やだるさが続くなら、数字を見るより医療機関で診てもらうほうが早い
- 正常範囲は個人ごとに違う。この記事の51〜65msという数字を、そのまま自分に当てはめないこと
- 測定条件を揃える。飲酒した翌朝や寝不足の日は当然下がる。それは疲労ではなく生活の影響
- 他人と数値を比べない。比べるのは常に「自分の平常時」
まとめ|体感が先に戻る、を知っておく
HRVから学んだことは、結局ひとつに集約される。
「走れそうな気がする」は、回復した証拠ではない。筋肉は自律神経より先に戻るので、その感覚は回復の途中で必ず一度は出てくる。
それを知っているだけで、判断がぶれなくなった。体感を疑うのではなく、体感はそういうものだと理解して、数字で補う。それがHRVの一番の使い道だと思っている。
この週の位置づけや、目指しているタイムの全体像は中間報告にまとめてある。

時計の数字の見方そのものについては、こちらに詳しくまとめた。


また走ってきます。🍚

